9月18日『戦場/海辺』
曇天。
午前から、御前崎での最初のシーンをビデオ撮影する。
海辺を古い運搬用自転車を押しながらよたよた歩く日本兵のシーンである。
自転車の荷台には、楽器、絵具、スクッチブック、カンバス、T定規、トルソ、花など、表現や芸術を象徴する物品を載せている。この載せ方自体が絵になっていないといけないので、いろいろ工夫する。自転車や載せる物品を浜辺までみんなで運ばないといけない。重い撮影機材もある。行軍という様相を呈する。
よたよた歩く日本兵が倒れ、自転車も横倒しになるシーンまで敢行。自転車が横倒しになると当然、荷台の荷物も地面に叩き付けられる。自転車や荷物が、その結果どうなるかわからないが、やらないわけにはいかない。倒れる演技をする私の耳もとで鈍いグシャッっという音。あまりよい響きではない。交通事故に遭遇したかのようである。どういう状況かは日本兵役の私にはすぐにはわからない。「カット!」の声がはいるまで、砂浜に倒れたまま動いてはならないからである。
カットがはいり恐る恐る倒れた自転車を見る。案外無事だった。荷物もガタは来ているようだが致命的ではない。
午後、マリリン・モンローが脱ぎ捨てた、砂上の白いドレスが血で染まるシーンと、その血のドレスを海で日本兵が洗い、洗っているうちに純白の白い布のかわるシーンを撮影。すべてやりなおしが利かないので、ぶっつけ本番の賭けとなる。
海でドレスを洗うシーンで、予想外の波が押し寄せた瞬間があった。押し寄せる波も怖いが、それが引いて行くときが危ない。引きずられまいと必死にふんばって洗い続ける。このシーンが終わり海から出ようとすると足が動かない。波とともに砂も押し寄せてきていて、足首まで砂に埋まっていたのだ。
夜、大阪から新幹線で大村邦男さん、山口繁雄さん、吉田恵子さん。車で荷物を積んで田中之博さんが合流。みんな兵士役なのだが、演技だけでなく、本当に兵士のようにいろいろな作業もお願いしなければならない。しかしその夜は、まずは前祝いの乾杯、そして夕食。
ホテルに戻り、岸本さんの17日撮影ぶんをみんなで鑑賞、明日の段取りを打ち合わせする。
*写真は浜辺に倒された自転車